稀月くんは、学校で突然いなくなった私を心配してるかな。
烏丸さんも大上さんも、私のために見回りを強化してくれていたのに。戸黒さんのほうが、一枚上手だった。
まさか、母と協力して学校に忍び込むなんて……。
NWIの烏丸さんも大上さんも、使い魔としての能力は高いと聞いた。
そんなふたりを二度も出し抜くのだから、戸黒さんはよほど能力の高い使い魔なのだろう。
仰向けに寝転ぶ私の真上には、黄金色に輝く美しい満月。それを見つめながら脳裏に思い浮かべるのは、『孤独な魔女の物語』の中のワンシーンだった。
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「愛しいあなたのためならば、心臓などすこしも惜しくありません。よろこんで、あなたに捧げましょう」
満月の夜の森で、魔女は銀の剣を静かに振りあげました。
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美しくて、悲しくて、切ない。
月の光を浴びながら銀のナイフを胸に突きつけようとする魔女の挿絵を、今でも鮮明に思い出すことができる。
童話の魔女は、大切なお姫様のために自らの《心臓》を差し出した。
前の学校の図書室であの童話を読んだときは、物語に出てくる魔女とお姫様の関係が私と茉莉の関係に似ていると思った。
だけど私は『孤独な魔女の物語』のような終わりを望んでいない。
そのためには、なんとかここから逃げ出す方法を考えなくては……。