月夜の黒猫は、心を攫う


 この学校に転校してきてから、稀月くんはほとんどクラスメートたちと交流を持っていない。

 最初は稀月くんに興味を持って話しかけてきてくれた子もいたみたいだけど、稀月くんが素っ気ない態度をとっているうちに、みんなあまり話しかけてこなくなったらしい。

 だから、教室を覗けば、稀月くんはだいたい、自分の席に座っている。それなのに、こんなときに限って稀月くんの姿が見えなかった。

 ついさっきまで廊下でふたりで話していたのに、どこに行っちゃったんだろう。

 困っていると、ドアの近くの席に座っていた女子生徒が私のことを見てきた。

「あ、あの……、き、づ……、宝生くんはどこに行ったかわかりますか?」

 目が合ったタイミングで、思いきって訊ねてみると、彼女がちょっと考えるように首をかしげて「あ」とつぶやく。

「宝生くんなら、さっき、日直の仕事があるからって先生に呼ばれてたよ」

「そうなんですね……」

 稀月くん、日直だったのか。そういうの、頼まれたらちゃんとやるんだな。

 嫌そうな顔で、しぶしぶ仕事を引き受けている姿が目に浮かぶ。

 でも、どうしよう……。ちらっと後ろを振り返ると、担任の先生が私のことを待っている。

「あなた、宝生くんの彼女だよね。戻ってきたら、あなたが来てたこと伝えとくよ」

 私が困っていると、ドアの近くに座る彼女がそう言ってくれた。

 転校してきてまだ一ヶ月だけど、私は稀月くんの彼女として他のクラスの子にも認定されているらしい。

 ちょっと恥ずかしかったけど、彼女の親切は嬉しかった。