月夜の黒猫は、心を攫う


「宝生さん、ちょっといいかな」

「はい、なんですか」

 何の用事だろう。不思議に思って首をかしげると、担任の先生が少し話しにくそうに沙耶ちゃんのほうを見た。

「実は、宝生さんのご家族のことで……」

「家族……?」

 今の私の家族って、誰になるのかな。親戚ってことになってる蓮花さん? それとも……。

 ふと、椎堂家の両親や茉莉の顔が思い浮かんで、胸がザワザワする。

「少し、廊下で話していいかな?」

 担任の先生は、控えめな声でそう言うと、私を教室の外へと促した。

 担当の先生とふたりで廊下に出ると、

「実は、宝生さんのご家族だという女性が、君に会いにきてるんだ。病気で入院しているご家族が、君に会いたがってるから話をしたいって……」

「茉莉がですか……?」

 私が咄嗟にそう言うと、担任の先生が表情を和らげた。

「ああ、思い当たるご家族がいるんだね。何となく少し不自然な気もしたんだけど、それならよかった。今その方が応接室に来てるから、先生と来てもらってもいいかな?」

 先生の言葉に、少し迷う。

 私に会いたがっている家族なんて、ひとりしかいない。絶対に茉莉だ。

 だけど、どうやって私の居所を見つけたんだろう。

 私ひとりで会いに行って大丈夫だろうか……。

 いや、だめだ。ひとりで行ったら、稀月くんが心配する。

「……ちょっと、待ってもらってもいいですか?」

 私は担任の先生に断りを入れてから、稀月くんの教室を覗いた。