「稀月くん、ちゃんとお昼ごはん食べた?」
「瑠璃」
声をかけると、稀月くんが嬉しそうに私の名前を呼んで、ふっと目を細める。
私の前でだけ見せる、稀月くんのやわらかな表情。大好きなその表情に見惚れていると、少し離れたところから女の子たちのささやく声が聞こえてきた。
「ねえ、今見た?」
「見た。あの転校生、実はかっこいいよね」
女子たちの会話を聞いた私は、ちょっと焦ってしまう。
稀月くんはふだん無表情な分、笑ったときのギャップに胸がきゅんとくる。
だけどそのことを、他の女の子に知られるのは嫌だなと思った。
「稀月くんは、あんまり隙を見せちゃだめ」
ボソリとつぶやくと、稀月くんが眉を寄せた。
「隙? 何言ってるんですか。おれが瑠璃のそばにいるときに、他人に隙を見せるなんてありえません」
「そうじゃなくて……。私の前以外で、あんまり笑顔を見せちゃだめってこと」
これは、いわゆる嫉妬というやつで。
私は、稀月くんの優しいまなざしや笑顔をひとりじめしたいのだ。
ぎゅっと眉根を寄せると、稀月くんの琥珀色の瞳がまっすぐに私を見つめてきた。
「瑠璃、それってどういう――」
稀月くんがなにか言いかけたとき、彼のスマホが震えた。
なにかメッセージが届いたようで、それを読んだ稀月くんが眉根を寄せる。