「使い魔が起こす事件のほとんどは、NWIが先に対応して秘密裏に処理してるからニュースにはならないんだよ。でも、先月の東京や昨夜の九州の事件みたいに、NWIよりも先に一般の警察に発見されると、怪奇殺人や通り魔事件として一般の人にも知られてしまう。五年前の連続事件もそうで、あのときは、事件を仕切ってたリーダーが、一般警察が被害者を発見しやすいようにわざと仕向けてたんじゃないかって烏丸さんが言ってた」

「そうだったんですね……」

 五年前にゆーくんが命を奪われた事件や一ヶ月前の事件以外にも知られていない事件は何件もあるんだ。

 そう考えたら、左胸がキリキリ痛くなった。

 私の《心臓》だって、誰にも知られないままに奪われていた可能性がある。

 稀月くん達に見つけてもらえた私は、きっと運がよかったんだ。

「それで……。イヌガミがおれと瑠璃に言いたいのは、今夜は月齢が満月だから、登下校には気を付けろってことだよな」

 稀月くんがそう言うと、大上さんが頷いた。

「そうだね。実は、一週間ほど前、この近くで戸黒らしき使い魔の姿が目撃されてるんだ」

「え……?」

 大上さんからの報告に、ドキリとする。

 ここ一ヶ月、私の周りは特におかしな事件も起こらず、平穏だった。

 新しい学校にもだいぶ慣れてきたし、友達の沙耶ちゃんともうまくやれてる。

 それに、前の学校の千穂ちゃんともメッセージのやり取りをしたり、ときどき電話で話したりしている。

 狼の使い魔に連れ去られかけて以来、稀月くんが放課後に私をどこかへ連れて行ってくれることは無くなったけれど、週末に蓮花さんや大上さん、烏丸さんがいっしょだったら、買い物にも連れて行ってくれる。

 この前は、蓮花さんと大上さんのデートにくっついて出かけて、私と稀月くんもいっしょに映画を見た。

 生まれて初めて映画館で見た映画は、音も映像も迫力がすごくてめちゃくちゃ感動した。

 普通の高校生活がどんなものなのかわからないけど、私は椎堂家にいたときよりも、自由に過ごせていると思う。

 おかげで、戸黒さんのことなんてすっかり忘れてしまっていて。ひさしぶりに思い出して、身震いしてしまった。