「じゃあ、また帰りにね」
教室の前まで送ってくれた稀月くんに手を振って離れようとすると、
「お嬢様」
稀月くんに呼び止められた。
ほんとうは、学校で「お嬢様」って呼ぶのも敬語もやめてほしい。
私は稀月くんと同じ年だし。
なにより、本来の私は「お嬢様」なんて呼ばれるような立場の人間じゃないんだから。
だけど……。何度言ってもやめてくれないから、最近はもう諦めている。
「なに?」
振り向くと、稀月くんがスクールバッグを肩からおろした。
「こんなところであれなんですが……、お誕生日おめでとうございます」
稀月くんの眦の尖った目が少しやわらぐ。
わずかな表情の変化に気付いてドキリと胸を高鳴らしたとき、稀月くんがリボンのかかった小さな箱をさりげなく私に差し出してきた。
「これ……、もしかして私に?」
「はい。十六歳、おめでとうございます」
稀月くんの言葉に、驚きを隠せない。
稀月くんが私についてくれて半年になるけど、私は稀月くんのプライベートを一切知らない。
稀月くんも、家でも学校でも必要以上には私に話しかけてこない。
だから、私のことは警護の対象の「お嬢様」としてしか見ていないと思っていたし、誕生日を知ってるなんて思いもしなかった。



