「一葉、そろそろいいか?」



突然、この車に乗ってから黙っていた棗の声がした。



「いいよ。手短にね」



一葉さんの返事の後。



誰かに見下ろされているような視線を感じて、反射的にハッと顔を上げる。



すると、棗が腕組みをして、こちらをじっと睨んでいた。



「何? いきなり……」



和やかだった車内の空気まで、不穏なものに変わっている。



さっきまでのやりとりが全部嘘みたいに、一葉さんも理音さんも大河までもが、無表情で私の顔をじっと見つめていた。



「昨日、お前に訊きそびれたことがあるんだけどさ」



棗のレンズ越しの瞳に見つめられて、自然と体が身構えた。



「何……?」



ドクドクと心臓が早鐘を打つ。



さっき水分を摂ったのに。もう喉がカラカラだ。



さっき紅茶を飲み干してしまったことを悔いつつも、どのみち全身が強張ってるから、グラスなんて持てないだろうな。



なんて思っている私に、棗は形のいい唇を開いた。



「お前って昔、銀楽街にいたろ?」



「え……?」



「俺、知ってるんだよ。お前がplatinumの総長・西園寺如月の女、『桐生ひより』って名乗ってた過去があるってな」