「日下部、この状況で混乱するのは当然のことだ。俺も100%平静なわけじゃないし、探り探りで発言してる。責めるつもりは微塵もない。すまなかった」



誤魔化しのない謝罪を述べた若松先輩。


知らなかった。


常にハキハキと発言するこの人にも迷いが生じることがあるのだ。


いつ何があるか分からない、最悪命を落とすかもしれないこの状況下で


湧き上がる数%の恐怖に蓋をしながら私たちを引っ張ってくれていたのだと思うと、なんだかたまらない気持ちになった。



「あ、ありがとうございます…若松先輩…」


「礼は要らん。お前はお前ができることをしてくれればいい。ヤバいのはあいつだけだ」



若松先輩は、ピッと親指でうしろを示した。



「あ、終わったかい?」



お兄ちゃんは埃を払うように手をはたきながら歩いてきた。