「若松、頼む…っ!ぼくと来てくれ!」
若松先輩の腕に歪んだ顔でしがみつく男子生徒。
その体はガタガタと震えていた。
「なんだお前…ちょっと落ち着け」
「なぁいいだろ?!使えそうな人間はみんなグラウンドから逃げようとして殺されてしまったんだ!!君なら頭も良いし運動だってできるだろう?!頼む!もう誰もまともなやつがいないんだ!!」
明らかに人を見下した言い分に不快な気持ちが湧いてくる。
若松先輩も同じなのか、眉間には深いシワが寄っていた。
近くで見れば、この男子生徒が何者なのかすぐに思い出せた。
我が高校の生徒会長
大鳳(おおとり)先輩だ。
お兄ちゃんと同じく舞台に参加する予定だったのか、王様のような装いをしている。
彼はこのマンモス校の成績トップに君臨している
私みたいな平凡な生徒にとっては雲の上の人。
のはずだが、目の前にいる大鳳会長は普段放っている煌びやかなオーラとは一線を画すほど見るに堪えなかった。
大鳳会長の背後には、2人の真面目そうな生徒が並んでいた。
うちの高校で有名な「大鳳信者」だ。
眉目秀麗な大鳳会長にお近づきになりたいがために、勉強運動にすべてを捧げているという人たち。
総勢何人いるのかは分からないが、おそらくほとんどが犠牲となってしまったのだろう。
その穴を埋めるために、頭もキレるし運動神経も抜群な若松先輩に白羽の矢が立ったというわけだ。
「あと1人…っ!1人優秀なやつが来てくれればぼくは助かるんだ!若松お願いだ、力を貸してくれ!」
迫真の懇願は、まるで劇中にいるかのようだった。
おもわず引き込まれてしまいそうな大鳳会長の叫びに、若松先輩は
「残念だが、他を当たってくれ」
その腕を振り払った。



