それから、各々に不満は残るものの、私と若松先輩が体験したことをふたりにも共有した。
「で、お前らふたりはどうだったんだよ?
俺らよりも先に到着してたみたいだけど」
若松先輩の問いに、お兄ちゃんと日下部くんは顔を見合わせた。
「俺はなんの障害もなくたどり着けたよ。
ずっと祥のことを待ってた」
「僕もです。おそらく100人には選出されなかったのかと…」
答える2人に心の底からホッとする。
選ばれなくて本当によかった。
信じていないわけではないけど、最悪グラウンドにたどり着けないまま、殺された生徒たちのように弾け飛ばされていたかもしれないんだ。
「時空が歪んだ…か。なぜ祥がそんな面倒なものに選ばれたんだろうね。そしてなぜ俺ではなくオマケ枠で若松の方が選ばれたんだろうね。ランダムだとしても許せないなぁ」
お兄ちゃんは恨めしそうに若松先輩を見た。
「さてな。こいつには俺が最適だったってだけだろ。お前と祥じゃ天然ボケ同士でピエロも手に負えないだろうしな。オマケにしては善戦したぜ?」
「若松、祥のことをバカにするのは許さないぞ」
「アホかお前のこともバカにしてんだわ」
「もうだめだ、祥、お兄ちゃんのところへおいで。ぎゅーしよう」
「却下。俺のピエロ」
両手を伸ばしてくるお兄ちゃんの手が払われる。
「橋本さんて…愛されてるんだね」
なにかすごいものを目撃しているかのような表情で日下部くんが言う。
「その通りだよ、愛してるもん」
「ちげーよ、反応が面白いだけだ」
真逆の返答に私はどういう顔をしていいか分からない。
「この通り、お兄ちゃんは私のことを大切に思ってくれていて、若松先輩はからかいの対象として見てるだけだよ」
「そう…なんだ」
軽く説明すればやや複雑そうにうなずく日下部くん。
強烈な先輩ふたりにあてられてしまっている彼が不憫に思えた。



