「あ、ありがとう…ございます」
ビクリと肩を揺らした日下部くんは慌てて頭を下げた。
同じ顔白族だからといって、自分より先輩のド派手なジョーカーに睨まれれば怖いに決まってる。
「うちの後輩は素直でいいなぁ。
で、最後はお前だよ」
にんまりとした胡散臭い笑顔。
向けられるのは私だ。
「ありがとうございました…若松先輩」
「ん、よろしい」
おそるおそる言えば、お兄ちゃんや日下部くんへ向けたものとは比べ物にならないくらい穏やかなまなざしで頭を撫でられた。
不思議な胸の高鳴りに襲われ顔が熱くなる。
「つーことで、俺が助けてやったんだから俺のピエロだ。さっさとこい」
お兄ちゃんから無理やり剥がすように私を腕の中に収めた若松先輩。
なんて横暴。
ドキドキなんて撤回だ。
そういえばこの人、もともと私を助ける気なさそうだったし。
「祥…お兄ちゃんのもとに来てくれるって約束したよね?どこへも行かないって」
「若松先輩…お言葉ですが、そもそも橋本さんは僕と文化祭をまわるはずだったんです。返していただかないと…その…」
「ほざいてろ軟弱ども。うるさくて休めやしないなぁまったく。祥、俺の膝座れ。次に備えるぞ」
若松先輩はじっとりとしたふたりの視線を一蹴し、荒い口調には似つかわしくないほど丁寧な手つきで私を膝の上に乗せた。
「祥…祥はお兄ちゃんのだよね」
うるうるとしたジェラシーの視線がつらい。
ここで抵抗しても無駄なのは分かっているので、大人しく若松先輩に体をあずけた。
視界の端には、臓物の欠片。
早く終わってほしい。
夢であってほしい。
心の底から願った。



