若松先輩は私の所属する陸上部の元部長だ。
もう引退しているのだけど、たまに顔を出してはわざわざ私のところまで来てフォームにケチをつけてくる。
とんでもなくいじわるで厳しい人だ。
「もう諦めて露店でもまわるか」
「はい?!」
「俺のクラスお前の好きそうなパフェだのケーキだの食えるぞ、来いよ」
悠長極まりないお誘いだが、私の好きな甘い物の誘惑に心が揺れてしまいそうになる。
「何言ってるんですか行きませんよ。ていうかそんな魅力的なものを出しているなんて、どうして教えてくれなかったんですか!」
「は?知っとけよアホ。まったく心外だな、俺はちゃあんとお前のクラスの気味悪いピエロ喫茶のこと把握してたってのに」
「仕事熱心なんで忙しかったんですぅ。
若松先輩のことなんて忘れてました」
「へぇそんな冷たいこと言うんだな。どいつもこいつも同じような真っ白い顔してるなか、お前のことはしっかりと判別してやった優しい先輩に」
「私に負けないくらい真っ白な先輩に言われたくありません〜」
生産性のない応酬の繰り返し。
こんな会話しているひまなんてないのに、若松先輩はどこまでもペースを崩さない。



