「若松も羨ましいものだな」
「え…?」
「なりふり構わず、自分のために本物の涙を流してくれる人間がそばにいるなんて」
突然始まった大鳳会長の話。
頭が追いつかなかったが、遮る理由もないのでとりあえず相槌をうつ。
「鬱陶しく、時に邪魔らしく感じるだろうが。それほどまでに強烈な想いとやらを注がれるのはひとえに幸福なのであろう」
「は、はぁ…」
「欲しくなる気持ちも分からなくない。向けられる感情は温かいのか…優しいのか。どちらにせよ、得てしまえば自分だけのものにしたくなるのだろう」
「…そうですか……」
「若松はそれほどまでに危険なピエロを自らの腕の中に閉じ込めている。誰にも奪われないように」
「………」
「奪って、支配して、知りたくなるな。己だけの為に流してくれた本物の涙がどのような味なのか」
「………」
「ピエロの感情のすべてがぼくに注がれれば…そう思いはじめていること自体、すでに堕ちかけているのか」
淡々と語る大鳳会長の話の中に、私の名前は一度も出てきていない。
それなのに、なぜだろう。
一言一言に触れられないほどの熱を感じる。
まるで、砂糖菓子でできた焼印を押し付けられ、じんわりと甘さを刻まれているような。
強制性を覚える重たい言葉に指先が震えた。



