「なぁ、クーピー」
「んー?」
「お前のその手品で、…あーそうだな。
髪を...ぶわっと!緑色に変えたりできちまう魔法の水なんか出せたりしないか?」
「なにそれ?
ジョークならつまんないよ」
「ジョークじゃないんだなこれが。気合いを入れたいんだよ。お前を愉しませるためにさ」
まるで人が変わったように、明るい発音でクーピーに語りかける若松先輩。
強い違和感を覚えたが、それすら打ち消してしまうくらい彼の目は、演者に染まっていた。
まるで
目の前の人物のために踊るピエロのごとく。
クーピーは一瞬いぶかしげに眉をひそめたが、なにかを感じたのかアッサリと
「わかった、いーよ」
指を鳴らし、その手にボトルらしきものを発現させた。
放物線を描いて投げられたそれを受け取った若松先輩は一度まぶたを大きく開くと、迷いなく蓋を取って捨てる。
手のひらに液体を出し、額に流されていた前髪をすべてうしろに持っていく。
しばらく教室内には髪と粘液の擦れる音だけが響いていた。
「──よし、待たせてすまないな」
乱雑に転がされた空のボトル。
傷みを知らない黒髪を揺らす先輩はもうどこにも存在しなかった。
四角い室内の中央に佇むのは
緑色の髪を垂らしたジョーカーだった。
クーピーが目を剥いて笑う。



