「君は殺さないでおこう。
まだ妹に危害を加えていないからね」
お兄ちゃんは王子様のような笑顔をこぼすと、刺さっていたカードを抜いた。
カードの角には、肉を貫いたぶんの血が付着している。
床に1滴、赤が垂れた。
私は、目の前の光景が信じられなくて息を忘れていた。
お兄ちゃんが…誰かを傷つけた……
感じたこともないショックに見舞われていると、オレンジのピエロの肩がふるふると震えているのに気がつく。
「ハハッ、ハッ!
キミいいなぁ、イカれてやがる」
楽しそうに、愉しそうに、ピエロは笑った。
「最高だ。ボクの嫌いなタイプだ!
なぁキミ…名前教えてよ!」
「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だよ」
「残念、ボクはピエロなんでね。人間サマのルールなんて知らないのさ。あーあ、早くこいつ死なねぇかなぁ?」
オレンジのピエロはフレンドリーにお兄ちゃんの肩へと腕をまわした。
一方まわされた側は、面倒なものに絡まれたと、心底不愉快そうな色を浮かべている。
微塵も怯えていない様子はさすがだった。
しかしこのピエロ、発言のトーンだけはずいぶん明るく好意的にも聞こえるが、大きな蜂蜜色の瞳は、不気味なほど何も映していなかった。
まるで濁った水晶のように。



