「そういえば祥、ずーーーーーーっと気になっていたんだけど、その腕に抱きしめているピエロ人形はなんなのかな?」
道中、お兄ちゃんにたずねられた。
「え…」
視線を下げれば、私の腕の中には2体の
ピエロ人形が収まっていた。
あれ…私…オープニングアクトで若松先輩に同じ指摘されてから、この子たちどうしてたっけ…?
心臓がひんやりと冷たくなる。
「たしかに。お前それずっと持ってるよな」
「わ、若松先輩…」
縋るように目をやった。
「私、いつからこれ持ってました?オープニングアクトの時は覚えているのですが…。その後の休憩時間も?さっきの話し合いの時も?ピエロに気絶させられた瞬間も?」
「あぁ。肌身離さず抱いてたぜ」
冷や水をかけられたように全身が硬直する。
足を止めれば、みんなも合わせるように動きを止めた。
「祥…大丈夫?変なことを訊いてしまったのならごめんね。ただ…あまりにも大事そうにしてるから羨ましくって」
申し訳なさそうに顔をのぞきこんでくるお兄ちゃん。
私の表情はきっと固まっているだろう。
心配かけたくなくて、無理やり唇の端を持ち上げる。
「ごめん…大丈夫!実はこの子たち私のロッカーに置いてあったの。ほっとけないから持ってきちゃった」
ヘラリ笑って2体のピエロ人形を見つめる。
本当にそうだろうか?
私からしてみれば、この子たちが
"着いてきた"という感覚に近い。
無意識下でも、けっして離れようとしないピエロ人形。
正直、肌に触れていることすら恐ろしかった。
「そうなんだ…。祥は優しいね。物を大事にするのはいいことだけど、お兄ちゃんヤキモチやいちゃうから、あまり構いすぎないようにしてね?」
「う、うん。わかった」
うなずいて、また歩き出す。
大事に…か。



