「あれ? まふゆちゃん、今日は生徒会お休み?」
「うん、久々にね。そういう朱音ちゃんは、今から部活?」
放課後。寮で勉強しようと教室から廊下に出たところで、ちょうど画材をたくさん抱えた朱音ちゃんに出くわした。
文化祭以降、自分の絵をもっと色んな人に見てほしくなったと話した朱音ちゃんは、美術部と演劇部に入部して毎日楽しそうに部活に精を出している。
「今日は演劇部で新しい舞台のセット作りをするんだよ。部長さんが脚本をすごく張り切って書いていてね、完成したらまふゆちゃんにも是非観に来てほしいな!」
「うんっ、絶対観に行く! 今から楽しみだなぁ」
舞踏会で知り合った、野太い声と大柄が特徴的な女性を思い浮かべる。あの部長さんがどんな脚本を書くのか興味があるし、きっとさぞや素敵な舞台となることだろう。
そうして軽く話した後、「また明日ね」とパタパタと走って行く朱音ちゃんを手を振って見送る。
「はぁ……」
振った手を下ろすと、自然と溜息が漏れた。
朱音ちゃんもみんなも、ちゃんと前に進んでいる。
なのに私だけが同じ場所に取り残されたような……、そんな気分だった。
◇
「ただいまー」
寮生活になってもティダにいた頃の癖で、つい「ただいま」と言ってしまう。しかし誰もいないこの部屋では、当たり前だが誰の返事も返ってこない。
「なんか寂し」
ティダにいた頃は、毎日お母さんが「おかえり」と言いながら豪快に笑っていた。なんだか無性にお母さんに会いたくなる。
今更ホームシック?
それともずっと降り続く雨が、こんなにも感傷的な気持ちにさせるのだろうか?
「ふぅ……」
部屋着に着替えて、帰りに学食でテイクアウトしたソーダを口に流し込んで一息つく。
時計を見れば、九条くんが早退して既に5時間が過ぎていた。
今何しているだろう? まだ用事は終わっていないのかな?
「木綿先生もはぐらかして、肝心なことは教えてくれないし……」
思い出して、私は溜息をつく。
実は4限の授業が終わった後、教室から出て行く木綿先生に、思い切ってあの舞踏会での呟きについて尋ねてみたのだ。