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「……ふーん。やっぱ舞踏会かぁ」
「もうこれぐらいで勘弁してください。憤死します」
「あーよしよし、泣かないでよ雪守ちゃん。ごめんね、雷護ってガサツだから」
「なんでそこでオレだけのせいになるんだよ!?」
えぐえぐと泣きながらソーダを飲む私を、雨美くんがよしよし撫でてくれる。この優しさをさっきまでに発揮してほしかった。
「あーあ、けどこれは九条様に負けた気分だなぁ」
「?」
雨美くんの不思議な言葉に、ソーダを飲むのを忘れて思わず見上げると、青い瞳とかち合って雨美くんが困ったように苦笑した。
「名前呼び。ボクらの方が先に雪守ちゃんと親しくなったのに、後から来た九条様が一足飛びに達成したって聞いて、さすがだなぁと思う半面、悔しくてね」
「? 別に名前ならいつでも呼んでくれたらいいのに」
「そういうんじゃねぇんだよ」
純粋に不思議でそう口にしたら、夜鳥くんが不貞腐れたような表情をして、額を小突いてきた。
「もぉー、何?」
額をさすりながらみんなを見ると、木綿先生まで苦笑している。
え? もしかして意味分かってないの、私だけ??
「けどまー、前ほどは悔しくはないんだけどな。なんかここ最近あの人と絡むことが増えたからか、印象が変わったっつーか、あんまオレらと変わんねぇんだなって思ったし」
「そうだね。ほとんど社交界にも姿を現さない人だから、それこそ色んな噂があったし」
「噂って何?」
「雪守ちゃんは知らなくていいこと」
「むー!」
話の流れからして九条くんの噂だというのは分かるけど、詳しく教えてくれる気は無いらしい。
以前言われた夜鳥くんの言葉、舞踏会で聞いた木綿先生の言葉、そして九条くん自身の言葉。全てを線で繋げば、答えが見えてきそうな気がするが……。
しかしピースが足りていないせいか、まだ何も見えてこない。
ちょっと前までは、よその家庭の事情に首は突っ込まないって思っていた筈なのに。今は知らないことが、こんなにももどかしいなんて……。
いつの間に私は、九条くんのことをもっと知りたいと思うようになっていたのだろうか?
