「なんだかんだと目白押しだった文化祭も終わって、もう一週間かぁ……」
ザワザワと帰り支度をするクラスメイトを見ながら、私は席に座ってぼんやりと物思いにふける。
近頃は帝都が梅雨入りしたこともあり、一日中雨が降っている日が多い。雪女的には雨はちょっと鬱陶しい程度だが、この後に続く高温多湿な帝都の夏については、今から既に憂鬱である。
なにせ去年初めて体験して、あまりの蒸し暑さに水風呂ならぬ氷風呂を自室に作ってなんとか凌いだ程なのだ。南国育ちで暑さには強い雪女だと自負していたが、ティダのカラッとした暑さと帝都のジメジメした暑さは、同じ暑さでも種類が違っていた。
なので今年の夏休みは、早々にティダに帰ることにしようと心に決めている。
「……あれ?」
久しぶりのティダへの帰郷に思いを馳せていると、隣の席から何やら慌ただしく立ち上がる音が響く。見ればちょうど九条くんが教室から出て行こうとするところであった。
「九条くん、今日も生徒会あるよ?」
私の問いかけに九条くんが申し訳なさそうな顔をして振り返った。
「ごめん。今日は用事があるから生徒会には寄れそうに無いんだ」
「そうなんだ。分かった、みんなには言っとく」
「ごめんね。じゃあまた明日ね、まふゆ」
「うん。じゃあね、九条くん」
放課後の教室で交わし合う、ごくごく普通の会話。なのに九条くんを見送る私の心臓は毎回破裂しそうに騒がしい。
別に何かの病気ではない。こうなる原因は分かっている。
「…………」
そして、クラス中から今まさに私に降り注がれている視線の理由も、もちろん分かっている。
常とは違う状況に混乱していたとはいえ、この間の己の迂闊な発言を呪いたい。
「はぁ……」
溜息をついて、突き刺さる周囲の視線から逃れるように窓の外を見つめれば、しとしとと憂鬱な私の気持ちを表すかのように、雨が降り続いていた。