「私、九条くんにいつも守られっ放しだなって反省したの」

「反省する必要なんて無いよ。寧ろ君はもっと守られるべきだ」

「でもこのままじゃ九条くんに悪いし、何よりされっ放しは私の性に合わない。何か私が出来そうなことがあったら言ってよ」


 ちゃんとお礼するから。そう私が言い募れば、九条くんが大袈裟に溜息をついた。む、何その反応?


「雪守さんはそうやって他人のことは気にする癖に、自分のことには無頓着過ぎる。今だってどれだけの男が君を見つめているのか、まるで分かってない。本当に……君は美しくて、可愛くて、無防備過ぎて心配で堪らない」

「は……?」


 どこか切なげに言われた言葉に、じわじわと頬に熱が溜まるのが分かった。
 踊る私達の小さな声は、きっと周囲には演奏でかき消されて聞こえない。けれどこんな赤い顔をしていたら、何事かと思われてしまうだろうか?


「……っ」


 私、変だ。

〝美しい〟とか〝可愛い〟なんて言葉、今日は木綿先生にも朱音ちゃんにも、色んな、色んな人に言われたのに。
 なんで九条くんに言われると、こんな――。


「――出来そうなことならしてくれるんだよね?」

「!」


 そう言って、金の瞳が私を捉える。
 赤い顔を見られたくなくて、思わず視線を逸らした。


「なら、君を名前で呼ぶ権利がほしい」

「っ!」


 そんな私の耳に内緒話をするように囁かれ、肩がビクリと跳ねる。

 何それ、そんなものの何がお礼なんだ。
 そんなのいちいち私に聞かなくても、いつでも勝手に呼べばいいじゃないか。

 そう思って気づく。
 そうだ、いつだってこの男は私に選択させるのだ。

 契約関係を結ぶ時だって――……。


「…………」


 コクリと唾を飲んで、逸らした視線を彼に合わせ、そうして小さく呟く。

 すると九条くんは花が綻ぶように微笑んで……。


「ありがとう、まふゆ」


 そう、囁いた。