「失礼しまーす! 九条くんいますー?」
ガラガラとわざと大きな音を立てて扉を開いたが、返事はなく保健室は静寂に包まれる。保健医もいないようで、一見すると無人である。
「…………」
だが悲しいかな、雪女の本能がジリジリと天敵の気配を感じる。この焼けつくような妖力。間違いなく左奥のきっちりと閉じられたカーテンの向こう側に、九条神琴がいる。
「えーと……、ちょっとカーテン失礼しまーす!」
返事はないが、とりあえず一言断って恐る恐るカーテンを開く。
鬼が出るか蛇が出るか。まさにそんな気持ちだった私だが、カーテンの中を見た瞬間、無意識に「うっ!」と、胸に何かが詰まったような声が出た。
「う、うわぁぁ……」
結論から言えば、九条くんは寝ていた。
しかしその寝顔が凶器過ぎた。恐しく整った美貌はそのままに、時に恐怖すら感じる力強い金の瞳が閉じられていることで、普段にはない無防備さが全面に現れているのだ。
――こりゃあ、あながち武勇伝のひとつ、保健医鼻血事件は作り話ではないのかも知れない。
そんなことが一瞬頭に浮かんだが、私の目的は寝顔ではない。いかんいかんと頭を振って、気合いを入れ直す。そうしてもう一度彼の顔をじっと見て、はたと気づいた。
「……はぁ、はぁ……はぁ……、……」
「……?」
