「ドタバタしててあの場では言えなかったんですけど、喫茶店では助けに来てくださってありがとうございました。それに生徒会のステージに間に合ったのも、先生のお陰です。重ねてありがとうございました」
頭を下げた私に、先生が慌てる。
「いやいや! お礼なんてとんでもない! 僕は君達の担任であり、顧問なんですから、助けるのは当然のことです! そもそも雪守さんには、九条くんのことでも無茶を言ったし、寧ろお礼を言うのは僕の方ですよ」
「ああ……。そういえばそんなこともありましたね」
言われてみれば一月前のあの時、私は木綿先生に頼まれたから、九条くんを探しに保健室へ行ったのだ。それまでは隣の席にも関わらず、顔を合わせたことはほんの数回しかなかった。
それがまさか契約関係になり、毎日顔を合わせることの方が当たり前だと思えるようになるなんて。なんだか不思議な感覚である。
「九条くんの授業及び生徒会の不参加は、上層部に恰好の退学理由を与えてしまう。彼自身の学校生活を守るためにも、どうしても彼に変わってもらう必要がありました」
ふと、木綿先生が何かを思い出すように呟く。
「なにせ日ノ本高校は皇族方と縁が深い。そこに妖狐一族の嫡男が入学するとなった時は、上層部が大反対しましたからね。その説得に奔走した者として、本当に雪守さんには感謝しています」
「え……?」
それは本当に小さな呟き。
でも確かに今、とても大事なことを言われたような――。
「せ、……」
「きゃああああーーーーっ!!!」
問いかけようとした言葉は、しかし突然響いた悲鳴によってかき消されてしまう。
なんだ大事な時にと、苛立ちまぎれに声の方を振り返れば、会場の入り口に立つ見慣れた三人の人影を見つけ、私は思わず目を見開く。
「神琴さまがいらっしゃったわ!! それに水輝くんと雷護くんも一緒よーーっ!!」
そんな女子達の黄色い悲鳴を頭の片隅に聞きながら、私は衝撃のあまりしばらく動くことが出来なかった。