うちの高校は歴史が古く、歴代の皇族方や名だたる貴族が通う由緒正しき学校だ。校舎や敷地内の建物は気品と格式を感じるものばかりで、中には過去に皇族方が使用して現在では使われていない建物もある。
今回の舞踏会の会場はそんな建物のひとつで、昔はこの高校に通う皇族貴族がダンスパーティーで楽しんだとされる、西洋建築を参考に建造された洋館であった。
「わっ! すっごい生徒の数! 有志の集まりって言ってたけど、かなり本格的」
「好評なら来年以降も考えるって部長さんが言ってたけど、これなら来年もありそうだね」
私と朱音ちゃんが洋館の中に入ると、思った以上に大勢の生徒が楽しそうにおしゃべりしている。制服姿の生徒が大半だが、ちらほら私達のようにドレスやタキシードを身にまとった者達もいた。
会場に入る前に受付をとのことなので、指示された通り受付に向かい、台帳に名前を書く。すると書き終えたところで、受付の人から二枚の紙を渡された。
「? これは?」
「今年の文化祭で一番輝いていたと思う人を、男女それぞれ一人ずつ、投票をお願いします。結果は舞踏会終盤で発表しますので」
へぇ。面白そうだな。
女子はもちろん朱音ちゃんに決まっている。一人でポスターにパンフレットに看板にと文化祭に花を添えた功労者だ。妥当な人選だろう。
じゃあ男子は……。
『だからこそ、雪守さんにちゃんと言いたいんだ。あの時俺を探してくれて、俺の世界を変えてくれてありがとう――』
「――――っ!!」
パッと浮かんだ顔を消し去るように、勢いよく私は頭を振る。ていうか、なんでその場面が今浮かんだ!? 文化祭で頑張ってた男子なんて、他にもいっぱいいるじゃん!!
むしろ九条くんなんて、親衛隊から私を守ったり、喫茶店で私を守ったり、守ったり、守ったり……。
……あれ? ちょっと待って。
もしかして私、実は九条くんにすっごい守ってもらってるんじゃない!?
「…………」
驚愕の事実に愕然とする。
そして衝撃に突き動かされるままペンをサラサラと動かし、〝九条神琴〟と用紙に書いていた。
……まぁその、罪悪感が少しばかりあったので。