見たい。いやダメだ。
私でさえあの癖の強い客達に難儀したのだ。朱音ちゃんがあの場にいれば客がどんな暴走をするのか、考えただけでも恐ろしい。
朱音ちゃんがあの時店番で本当によかった。
「朱音ちゃんのその気持ちだけで充分嬉しいよ。心配してくれてありがとう」
「うー……。でも何よりも」
「ん?」
「わたしだって、まふゆちゃんのメイドさん姿を見たかったよぉーっ!!」
「……それは見せられたもんじゃないから忘れて」
思わず遠い目をして、もうメイドから離れようと話を戻す。
「それより舞踏会だっけ。そういえば制服のポケットに景品のカードを入れて……」
ゴソゴソとポケットに手を入れれば、すぐに目的のものが手に当たったので、引っ張り出す。
〝後夜祭特別舞踏会の誘い〟と美しい金色の文字で記された真っ白なカード。確かこのカードがあれば、後夜祭にて開かれる演劇部主催の舞踏会でドレスアップしてもらえるんだったか。
「演劇部の部長さんに、まふゆちゃんがカードを持っているって伝えたら、『直々にアタシがドレスアップする!』って、スッゴイ張り切ってたよ!!」
「ええ……?」
演劇部の部長さんとやらは存じ上げないが、なにやら経験上とてもイヤな予感がする。
それに何より……。
「私よりも朱音ちゃんのドレス姿が見たいよ! やっぱりこのカード、朱音ちゃんが……」
「もー! まふゆちゃんならそう言うと思った。心配しなくても、わたしも舞台の美術セット制作のお礼として、ドレスを着せてもらえることになってるよ!」
「ええっ!? そうなのっ!?」
聞けば朱音ちゃん、生徒会主導の広報班での美術担当の他にも、文化祭で上演された演劇部の舞台セット制作にも助っ人として参加していたそうだ。
朱音ちゃんが例の文化祭ポスターを描いているところを演劇部の部長さんが偶然目撃したらしく、その時に絵に惚れ込んだ部長さんから直々にスカウトされたらしい。
そしてそれがキッカケで部長さんと親しくなったとか。
その演劇部部長、見る目があるではないか。
さすがは私の天使、朱音ちゃんである。
「ということで、わたしのことなんて気にしないで目一杯綺麗にしてもらって! 部長さんのメイク技術すごいから、きっとビックリするよ!」
「うう~……」
そんな訳で結局私は観念するしかなく、朱音ちゃんに引きずられるようにして、ドレスアップ会場だという演劇部の部室へと行くこととなったのだった。