◇
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「雪守さん大丈夫?」
「し、死ぬ〜」
ドタバタドタバタと。
現在私達は一路、ステージを目指してひたすら校舎内を走っている。人々の目の前を通り過ぎる度に黄色い歓声が上がるが、今は走るのに必死で気にするどころではなかった。
「ああ……天国が見えるぅ……」
私も短い足を死ぬ気で動かして全力疾走しているが、妖狐、蛟、鵺と、獣が本性の面子と違って私はあくまで雪女なのだ。周りに比べてどうしても速さで劣る。
九条くんに手を引っ張ってもらって、どうにかみんなに着いていってるが、もはや呼吸困難一歩手前、足もガクガクだ。
「雪守さんっ、意識をしっかり! しかしこのままでは、時間をロスするばかりですね……! こうなれば仕方ありません! はあぁぁっ!!」
木綿先生が振り返り、酸欠でフラフラの私を心配気に見たかと思うと、突然謎の雄叫びを上げた。
すると声と共に、木綿先生の体が激しく発光し始める。
「うわっ、眩しっ!」
咄嗟に手で顔を隠して光を遮るが、強烈な光は一瞬だったようで、シュルシュルと少しずつ光が収束していく。そうして完全に収まった時、光の中心から現れたのは、宙にふよふよ浮く薄っぺらい白い反物――。
木綿先生の本来の姿、一反木綿が現れたのであった。
「さあ、雪守さんっ! 僕に乗って……、グボァア!?」
「悪りぃな、木綿」
「もうボク走るの疲れたし、助かった〜」
「お気遣いすみません、木綿先生」
「ぼっ……、僕は雪守さんだけ乗せようとー!!」
木綿先生が私の前にスッとその薄い体を近づけようとしたところを、夜鳥くん、雨美くん、九条くんが先にその背中にどやどやと乗り込み、重みで先生の薄っぺらな白い布の体がたわんだ。
「重いぃ!! 死ぬぅーっ!!!」
「えぇ……」
木綿先生の断末魔が響き渡り、私まで乗ることを少々躊躇う。
「雪守さんも早く乗って!」
しかし九条くんに急かされてしまったので、申し訳ないとは思いつつ、私も先生の背中にそっと座る。
「ううう……著しい重量オーバーですが、仕方ありません。行きますよ、みなさん! 舌を噛まないでくださいねーっ!!」
先生がそう言った瞬間、「あ」と思う間にビュンッ! とものすごい勢いで、私達はこの場から消え去った。