◇


 ……おかしい。

 (さば)いても捌いても客が沸いてきやがる。


「メイドさーん! こっちも注文お願い!」

「メイドさーん! 飲み物に元気が出るおまじないをかけてくださーい!」

「メイドさーん! オムライスにハート書いてー!」


 おかしい。


「噂のメイドってあの紫の髪の子!? ヤバっ! マジでめちゃカワじゃん!!」

「スタイルヤバ過ぎだろ! めっちゃいい匂いしそう!!」

「執事あんどメイド喫茶、ただいま1時間待ちでーす!!」


 おかしいっ!!


 私が最初にホールに出た時は、忙しいって言っても常識の範疇(はんちゅう)だったじゃないか!! 
 それが今はなんだ!? やたらと男の客ばかり、寿司詰め状態じゃないか!! しかも廊下の行列はなんだ!? その1時間待ちのプラカードは一体いつ作ったんだぁぁーっ!!?

 ……はぁ、忙しさでつい取り乱してしまった。こういう時こそ落ち着かねば。


「すぅーはぁー……」


 深呼吸して注文を取りに行く。


「お帰りなさいませ、ご主人様。ご注文はいかがなさいますか?」


 マニュアル通り小っ恥ずかしい口上を述べ、にこやかに目の前の男性にメニュー表を手渡す。


「…………」

「……あの、ご主人?」


 メニュー表を掴んだまま何やらボーッとしているので顔の前で手を振ると、ハッとしたように男性が慌てて頬を赤らめた。


「す、すみません……っ! つい、見惚れてしまって……」

「?」


 メニュー表に? 変な人だな。

 よく分からんがさっさと注文を聞き出して、次の席へと向かう。


「お帰りなさいませ、ご主人様。ご注文はいかがなさいますか?」

「そうだなぁ、まずは君のハートを注文しようかな?」


 キザな感じの男性が、ウインクをしてこちらに手を伸ばしてくるので笑顔でかわす。


「わかりました、えいっ!」


 マニュアルを思い出しつつ、胸の前で両手でハートマークを作ってウインク男に向かって投げる真似をしてやった。


「うわぁ! メイドさんのハート、いっただきぃー!!」


 ??? 訳わからん。