カチューシャを装着して、鏡に映るメイド服を着た女をジッと見つめた。あ、完全に目が死んでる。
 まさかこんな形でこの服を着ることになろうとは……。


「はぁ……」


 おっと、いけない。無意識に溜息が出た。
 スカートの裾をグイグイ引っ張るが、どれだけ頑張っても膝は隠れない。むしろ太ももまでガッツリ見えている。


「んむむ」


 上半身もコルセットベストとかいう名称のものを着ているせいか、胸が盛り上がって見えて恐しく恥ずかしい。


「これ、絶対メイド服じゃないよね? メイド服と言う名の別の何かだよね?」


 仕立てたのは私だが、そこに私の意見は無かった。私が思うメイド服とは、長袖にロングスカートのクラシカルなものだったのだが、女子達には半袖ミニスカでキュートなものこそがメイド服だと押し切られてしまった経緯がある。


「何故うちのクラスの女子達は、みんな肉食系なのか……」


 そしてそんなにもこだわっていたメイド服での接客をせずに、みんなどこへ行ったのか。

 考え出せばキリがないが、ボイコットしたのは幸いにも午前当番のメイド達だけなので、午後当番の者達が集合する時間まで乗り切れば、なんとかなるだろう。

 作戦としては、残った男子達には調理の方に専念してもらい、私はとにかく客を捌くことにする。接客は未知の領域だが、人を捌くことは生徒会で慣れているので問題はあるまい。
 午後からのステージには集合時間ギリギリとなってしまうが、急いで移動すればなんとか間に合う。

 よし、完璧なシュミレーション。

 この服もよく考えたら布面積が少ない分、動きやすいじゃないか。うんうん、いける。
 頑張るぞ! 気合いだ私っ!


「雪守ー! 準備できたかー?」

「大丈夫! 今行く!」


 男子の声に自信満々に返答して、私はホールへと足を踏み入れる。

 しかしこの時の私は気づいていなかったのだ。


 この(おご)りが大きな間違いであったと――。