私は雪守まふゆ。
人間のお父さんと雪女のお母さんの間に生まれた、いわゆる雪女の半妖。だけどそれ以外はどこにでもいる普通の女子高生である。
どれくらい普通かと言えば、お母さんは妖怪だが、別に貴族ではないド庶民だし。お父さんは会ったことが無いので詳しくは知らないが、お母さんの話だとこれまたごく普通の冒険家なのだという。
……冒険家という職業が普通かどうかは、今は置いといてもらいたい。
『まふゆ、いいこと? あんたが雪女の半妖だってことも、妖力を使えるってことも、ぜ~ったいに誰にも言っちゃダメよ』
小さい頃から言い聞かされてきた、お母さんの呪文のような言葉。
昔は幼過ぎてその言葉の理由なんて思いつきもしなかったけど、世間一般的に妖怪と人間が結婚するのはレアケースだ。
やはり共存はしていても、人間と妖怪は種族の違う者同士。たいていは妖怪は妖怪と、人間は人間と結婚する。
更に妖怪と人間の間に子どもは生まれにくいので、〝半妖〟と呼ばれる存在は数える程しか存在しない。まだまだ世間の半妖への認知は薄く、時には口さがない言葉を受けることもあるという。
だからきっとお母さんは私が不当な扱いを受けることを危惧して、雪女の半妖なのだと軽はずみに言わないよう念押ししたんだと、今はそう理解している。
半妖は妖怪と違って妖力が人間の気配に隠れてしまうので、一見するとただの人間にしか見えない。自分から正体を明かしたり、妖力を露わにしているところを見られでもしない限り、妖怪の血が混じっているとは気づかれないのである。なので私が半妖だとバレたことは、16年の人生の中で今のところ一度も無かった。
……とはいえ雪女の半妖である以上、その性質は人間のふりをしていても雪女と変わらない。
分かりやすく言うと、氷の妖力を持つ私は火の妖力が苦手なのである。
『あ』
『君が隣の席の子? 俺は九条神琴、よろしく』
『……っ!』
だから九条くんを初めて間近で見た時は、とんでもない衝撃が走ったものだった。