「まふゆ、引っ越しの準備は(はかど)った? 重いものは俺が……」


 言いかけて九条くんの体がピシリと固まる。

 そりぁそうだろう。なにせ目の前には日ノ本帝国の皇帝陛下が、何故か警備員の格好で段ボールに箱詰めしているんだから。


「ああ、そなたか。随分と気軽にこの部屋を訪ねて来たな。どうやらまふゆとは仲良くやっているようだ」

「ははは……。いえ、そんな……。恐縮です……」


 珍しく九条くんがしどろもどろに陛下に作り笑いを見せる。きっと陛下の顔が怖いからだろう。

 もうっ! 九条くんは陛下の親友である紫蘭さんの息子でもあるんだから、もっと友好的でもいいのに。

 どうやったら仲良くなるのかなぁ……。


「あ」


 そこで私は作っておいたいなり寿司を思い出す。


「そうだ、九条くん。屋敷からそのまま来て、お腹空いたでしょ? 私お昼にいなり寿司を作ってみたから、片づけの前に一緒に食べよう。ね、お父さんも」

「え」

「む」


 机に置いたお重の蓋を開け、にっこり笑って言うと、九条くんとお父さんが虚をつかれたように目を見開く。
 そして二人は互いに顔を見合わせながらもお重に手を伸ばし、いなり寿司を頬張った。


「ふふっ。どう?」

「美味しいよ、まふゆ」

「ああ、こんなに美味いいなり寿司は初めてだ」


 三人で小さな机を囲んでとる昼食。
 なんだか面白い絵面だけど、こういうのいいなって思う。

 九条くんとお父さんと。

 この小さな幸せを、もっともっと積み重ねていきたい。

 そう思う、今日この頃だ。


 番外 父と娘のおかしな交流録・了