「皇族の婚姻はまずはしきたりが第一であり、当人同士の気持ちは二の次。私自身はそれは皇位継承者として当然と考えていたが、そんな時に出会ったのだ。……風花と」
「お母さんと……?」
「ああ。初めての顔を合わせたのは、高校一年生の時だったか」
私が目を瞬かせると、陛下はポツポツと昔のことを語り出した。
『へー、アンタが日ノ本帝国の次期皇帝? なぁーんか、子どもっぽいっていうか、威厳が無いわねぇ』
「生まれて初めて見る雪女。失礼な物言いもあの頃から健在で、一族を飛び出して帝都に来たという風花が、皇族という狭い世界の中で生きる私にはとても自由で眩しく感じた」
「へ、へぇー……」
お母さん、そんな頃から怖いものなしだったんだ……。
陛下が好意的に見てくれたから良かったものの、下手すりゃ不敬罪ものである。
「とはいえ、あくまでもその頃は友人。風花に妻になってもらいたいと思うようになったのは、三年の体育祭。借り物競走での出来事が契機だった」
「え、借り物競走?」
「風花が走者でな」
「あ、分かった! お母さんが陛下を借り出したんでしょ?」
日ノ本高校の借り物競走にはカップルになるという逸話もあるし、二人も例に漏れずそれがキッカケで付き合ったのだろうか?
ワクワクと話の続きを待っていると、しかし陛下はゆるゆると首を横に振ってそれを否定した。
「いや、違う。風花が借り出したのは紫蘭だった」
「へぇっ!? で、でも、紫蘭さんは……」
「ああ、もちろん葛の葉が怒り狂ってな。それはもう酷い争いだった」
「ええぇ……」
しみじみと言う陛下に対し、私の方はドン引きだった。
なにせ当時から葛の葉さんと紫蘭さんは婚約者同士。なのになんでお母さんはわざわざ波風立てるようなことを……。
私が微妙な顔をしていると、それを見た陛下が何故かくすりと笑った。
