脱出ゲームを後にした私と朱音ちゃんは、模擬店に寄って買い物を済ませ、他愛ない話をしながら次の目的地へと向かう。
「あ、やってるやってる」
しばらく歩けば、目的のツヤツヤの青い髪の持ち主はすぐに見つかり、お客さんとの話が終わるのを見計らって私は声を掛けた。
「雨美くん、受付ご苦労様」
私の声に受付に座っていた生徒会書記、雨美水輝がこちらを振り向く。
「あー雪守ちゃん! そっちこそお疲れー。聞いたよ、2組の難攻不落過ぎる脱出ゲームで無双したんだってね」
「何その脚色した話、無双なんてしてないし。それよりはいっ! 差し入れ」
「あ、やったぁ! お好み焼き! ありがとー。実はボク、朝から全然食べる暇がなかったんだよねぇ」
言いながら早速容器の蓋を開けている。よっぽど空腹だったのだろう。これほど喜んでくれたら買ってきた甲斐もあるというものだ。
「そっかそっか、いっぱいあるから全部食べな」
ふふふと笑って心温かい気持ちになった時、雨美くんがおもむろにズボンのポケットから七味唐辛子が入った筒型容器を取り出す。
「よかったぁ、ちゃんと持ってきてて」
「ん?」
何を……と思った瞬間、それは一気にお好み焼きへとぶち撒けられた。
ザーーーーッ。
そんなお好み焼きに落ちていく七味唐辛子の音が、やけにハッキリと耳に残った。
「うんっ! あぁー美味しいっ!!」
すっかり真っ赤に染まったお好み焼きを口に入れ、雨美くんは幸せそうに顔を綻ばせる。
そうか、美味しいか。美味しいならいいけどさ……。