九条くんが長年の病から解放されて早ひと月。
 未だ周辺のゴタゴタが静まる気配はないが、私自身は以前と変わらずに元気に過ごしている。


「えーっと、こっちはもう要らないから捨てていいし。あ、こっちはまだ使うかも……」


 今日は九条くんとの楽しい遊園地デートを満喫した次の日。
 せっかくのお休みに私が何をしているかと言うと、寮にある自室で来たる引っ越しに備えた不用品の仕分け作業である。

 私が皇帝陛下の娘……つまり皇女であったことが発覚し、お母さん共々皇宮に移り住むことが正式に決まったことは、まだまだ記憶に新しい。
 そしていよいよその日が間近に迫り、こうして引っ越しの準備をしている訳である。


「あとで九条くんもお昼からお手伝いに来てくれるって言ってたし、それまでにはこのごちゃごちゃした荷物をある程度片しておきたいな……」


 そう呟いて、私は机に飾ってある写真立てへと視線を向ける。
 写真には私と九条くん、そしてウサギさんとクマさんがにこやかに写っていた。

 ハプニングもあったけど、とっても楽しかった遊園地デート。

 これからもあんな風にお出かけしたいけれど、でも私だけでなく、九条くんもこれから大きく日常が変わる。どれだけ二人の時間が作れるのかは未知数だった。


『――継ぐよ。葛の葉が言う〝新しい九条家〟それを俺は創り上げていきたいから』


 まだ学生の身で、三大名門貴族の当主を務めることになった九条くん。
 やはり今も何かと忙しいようで、休日は九条の屋敷に戻って一日留守なことが多いし、学校自体も早退することもしばしば。
 昨日の遊園地デートは、九条くんが頑張って時間を作ってくれた賜物(たまもの)だった。

 いくら健康体になったとはいえ、無茶ばかりして倒れてしまわないかと心配だが、そんな中でも私との時間を保とうとしてくれるのは、素直に嬉しかった。