「ところで、九条家の奇病……。神琴くんの代で消えると思う?」

「――――」


 チラリと葛の葉の表情を伺うと、その金色の瞳が不安げに揺れる。
 しかし次の瞬間、凛とした九条家当主らしい顔でわたしを見て言った。


「それは分からん。……じゃが、神琴とまふゆの縁が、暗闇だった九条家に光をもたらしたのは確かじゃ」

「……そうね」


 時代は恋愛結婚が主流といえど、三大名門貴族みたいな格式を重んじる一族は未だ政略結婚も多い。
 にも関わらず葛の葉が九条くんに婚約者の類いを用意しなかったのは、単に病気の件だけじゃなく、近親婚を繰り返す閉鎖的な一族の未来を切り開く為でもあったのかも知れない。


「姫様、失礼します」


 そう一人納得していると、声と共にスッと(ふすま)が開き、今は白髪のおばあちゃんの姿をした三日月さんが現れる。
 そして見るからに美味しそうな黄金色のいなり寿司が、彼女の手で机に並べられた。


「あら、美味しそう」

「もうお昼ですので。風花様もどうぞおつまみください」

「さっすが、気が利くー! 聞いたわよ、葛の葉。こんな人を、神琴くんが小さい頃に屋敷から追い出したんですって?」

「はあ?」


 まふゆから聞いたことをそのまま告げると、何故か葛の葉は呆れたように眉をしかめた。