曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の家紋を(いただ)く、広大な敷地に建つ美しい寝殿造(しんでんづくり)のお屋敷。
 そこにある葛の葉の私室へと招かれたわたしは、優雅に緑が美しいお抹茶と、繊細な花を模した上生菓子を(たしな)んでいた。


「はぁー、さすが九条家。お茶とお菓子まで美味しいわぁ~。この前國光(くにみつ)が持ってきた〝フロなんとか〟も良かったけど、やっぱり日ノ本人なら和菓子よねぇ~。ねっ、葛の葉!」

「……何故(わらわ)がそなたと茶なぞ飲まねばならぬのじゃ」


 わたしを部屋に通した張本人の癖に、何が気に入らないのか、葛の葉はブツクサと文句を言う。
 それになんだか昔を思い出して、わたしはケラケラと笑った。


「まぁいいじゃないの! 22年振りの同窓会と思えばさ!」

「殺されかけておいて、実にのん気なものじゃなぁ」


 葛の葉が呆れたように深い溜息をつく。

 畳張りの床に凛と背筋を伸ばして座るその姿は、わたしより一回り以上も小さい。
 その見た目はまるで10歳くらいの小さな女の子のようで、わたしが知る彼女の過去の姿とは大きく異なっている。

 きっと当時の気品ある、たおやかな和風美女だった葛の葉を知る者なら、誰もが驚くに違いない。


「そういえば知ってる? 当時のわたし達の担任、今は学校長になってたわよ。わたしを見ても全然ピンときてなかったみたいだけど」

「それはそうじゃろう。今のそなたは完全に人間。元雪女だと気づける者など、そうおらん」

「…………」


 言って葛の葉が静かにお茶を(すす)る。

〝元雪女〟と〝妖狐もどき〟
 22年前とは大きく変わってしまったわたし達。

 ……ううん、わたし達だけじゃないか。國光も。


 そして、紫蘭(しらん)も――……。


「ありがとうね、葛の葉。屋敷に上げてくれて。正直言うと、門前払いも覚悟してたから」

「……ふん。紫蘭の仏壇に手を合わせたいと言われれば、断る訳にいかんじゃろう」

「ふふ」


 素直じゃない物言いにわたしは微笑む。

 相変わらずツンデレよね。そういうとこ、ちょっとカイリっぽいかも。
 ……まぁ年季が入ってる分、葛の葉の方が何倍も厄介で、(こじ)らせてはいるけどね。