「あはははははっ!! じゃあみんなしてずっと私達のこと着けてたの!? もうっ! ホント相変わらずなんだからぁ!!」
「え……」
怒るでもなく、何故か突然大笑いしだしたまふゆ。ケラケラと楽しそうに笑う様子に俺だけでなく、全員が呆気にとられる。
しかし気分を害した訳ではないことに俺がホッとしていると、まふゆが「――でも」と言葉を続けた。
「これ以上は、ついてきちゃダメだよ? 今日は九条くんとのデートなんだから」
まるで言い含めるように、まふゆが妖艶に笑う。
夜仕様にライトアップされた遊園地の光に照らされたそのあまりに美しい姿に、誰もが言葉を失って見惚れ、やがてこくこくと頷いた。
「よし。じゃあ九条くん、行こっか」
「え、あ」
みんなの様子に満足そうに頷いて、まふゆは俺の腕にぎゅっと抱きつく。
先ほど見せた艶っぽい姿とは違う、いつもの明るく溌溂とした様子に戸惑いながらも、俺は彼女から目が離せない。
遠ざかって行く朱音達の姿をチラリと視界に収めながら、今帰ればちょうど門限に間に合うなと考えていると、不意にまふゆに腕をクイッと引っ張られた。
「?」
「もう門限近いね」
「あ、ああ。でも今から帰れば時間には……」
「――私、実は一度やってみたかったことがあるんだ」
「え?」
俺の言葉に被せるように言って、まふゆはいたずらっぽく微笑む。
「〝門限破り〟来週には退寮しちゃうし、明日は学校もお休み。今日が決行するラストチャンスだと思わない?」
腕を引かれた先は、遊園地の出口とは真逆の方向。
それにダメだという気持ちと、俺もそうしたいという気持ちがせめぎ合う。
しかし――、
「今日はもっとずっと、九条くんとこうして一緒にいたいな」
その言葉を聞いて、やっぱり俺は一生まふゆには敵わないなと思った。
◇
未来など俺には無いと、ずっとそう思って生きてきた。
『バカバカ! そんなの私だっておんなじだよ! ずっと九条くんの側にいたい! 病気だからって関係ない! この先何があったって、私は九条くんの隣にいる……!!』
でも君は、絶対に諦めなかった。
とても大きな代償を払って、俺との未来を望んでくれた。
「九条くん、今幸せ?」
まふゆの言葉に、俺は笑顔で頷く。
「ああ、幸せだよ」
思い描いていた以上の幸せを、今俺は謳歌している。