先日の体育祭での葛の葉の一件。
それによって元々黒い噂の絶えない九条家を取り潰せという声が、役人や貴族達から上がった。
これは葛の葉のしたことを考えれば当然であるし、俺自身は甘んじて受け入れるつもりでいた。
しかし――、
『事件はあくまで九条葛の葉、彼女個人によって引き起こされたもの。一族は関係ない』
そんな皇帝陛下のお言葉によって、九条家取り潰しの声は瞬く間に沈静化した。やはり陛下の威光は凄まじい。
とはいえ、当主が事件の張本人のままという訳にはいかない。
そこで指名されたのが、この俺だった。
「――継ぐよ。葛の葉が言う〝新しい九条家〟それを俺は創り上げていきたいから」
はっきり言葉に出すと、より一層気持ちが引き締まる心地がする。
そんな俺にまふゆは優しく微笑んだ。
「なら私も傍で見ているからね! 九条くんが創る〝新しい九条家〟がどんな風か!」
「ん? そこは〝私も一緒に頑張る〟って、言うところじゃないのかい?」
「えっ!? そ、それってどういう……!?」
耳まで真っ赤になって慌てふためくまふゆが可愛くて、見ているとつい、いたずら心が湧いてくる。
「さぁ? どういう意味だろうね?」
「く、九条くん! こんな時に冗談は……!」
「いつまで〝九条くん〟? まふゆは〝九条まふゆ〟になっても、俺を九条くんって呼ぶつもり?」
「んなっ!?」
クスクスと笑っていると、さすがに揶揄われたと気がついたのか、まふゆが目を三角にして憤慨する。
「もうっ! 私で遊んで! 神琴のバカっ!!」
「っ」
怒りのせいか目元が赤らんだ瞳で挑むように言われ、ブワっと全身が粟立つのを感じる。
思わず口元に手を当てて俺が押し黙ると、まふゆが不貞腐れたように呟いた。
「……照れるくらいなら、最初から言わないでよ。……バカ」
まふゆはチラリと横目で俺を見て、プイとそっぽを向く。自分では分からないが、恐らく俺の顔は真っ赤なのだろう。
「ごめん」
さすがに揶揄い過ぎた。そして手酷く返り討ちに合った。やはり俺はまふゆには敵いそうにない。
それを実感して苦笑していると、明後日を見ていたはずのまふゆがこちらを見ていた。その表情は心配の色を浮かべている。