◇
「わぁ……!」
ゴンドラに向かい合わせに乗り込み、ガラス張りの窓に両手をついたまふゆが、まるでミニチュアのように小さくなっていく街並みに歓声を上げる。
「すごーい! 建物も人も、ちっちゃい!」
「夕焼けに照らされていい景色だね」
「うんっ! 結構遠くまで見えるんだね!」
俺の言葉にまふゆがウキウキと頷く。
「あ、皇宮だ」
しかしそこでふと、明るかったまふゆの声のトーンが落ちる。
その表情は少しだけではあるが、憂いを帯びていた。
「……来週には寮を出るんだっけ」
「うん」
俺の言葉にまふゆはこくんと頷く。
実はまふゆはお披露目の儀を間近に控えた今、警備的にも心許ない学生寮は退寮し、正式に皇宮へと住まいを移すことが決まっていた。
……現皇帝唯一の皇女として。
「この前も皇宮に行ったんだろ? 楽しかったかい?」
「うん。陛下も宰相さんも他の人達もみんな優しいし、楽しかったよ。皇弟殿下夫妻に赤ちゃんも見せてもらったけど、目がクリクリですっごく可愛かったなぁ。私のいとこなんだって。そう言われると不思議かも」
「そっか」
その時のことを思い出したのか、少しだけ落ち込んでいた雰囲気が和らぐ。
それをじっと見ていると、まふゆが眉を下げて言った。
「九条くんも……だよね」
〝何が〟という主語は無いが、彼女の言いたいことは伝わった。俺は頷き、口を開く。
「ああ、今月中には九条の屋敷に戻るつもり」
「継ぐんだよね? 葛の葉さんの……跡」
「…………」