「あ、九条くん。例の人達(・・・・)また居るよ」

「ん」


 あれから休憩を挟みつつも、たくさんのジェットコースターに乗った俺達。多分コースター系は全部制覇したのではないだろうか?
 上機嫌なまふゆに俺の気分も上がるが、それをぶち壊すような不快な声がまたも聞こえてきた。


「うぅ……」

「うぇ」


 目深に帽子を被り、マスクにサングラス姿をした、例の奇妙な5人組の集団。
 彼らは俺達と全く同じタイミングで同じ乗り物に乗っているようで、既にまふゆも気づくくらい、どこに居ても彼らの姿が視界に入ってきた。


「おぇぇ」

「ぐぇぇ」


 しかも毎回乗り物酔いしてるのか、必ず全員えずいている。ジェットコースターが苦手なら、何故そうまでして乗るのか……。
 最初は新聞記者かと疑っていたが、それならばわざわざ俺達と同じ乗り物に乗る必要はない。
 むしろ乗っていては、カメラを構えられないではないか。

 ということは、彼らは記者ではない。

 それよりも5人という人数といい、どこかで聞き覚えのある声や背格好といい、俺の中に浮かんだ予感が、じわじわと確信に変わろうとしていた。


「それにしても、もう夕暮れだね。早いなぁ」


 視線を集団から空に移したまふゆが、顔を上げてポツリと呟く。
 つられて俺も見上げれば、確かに青かった空がもうすっかり赤かった。まふゆと居ると、時間が過ぎるのがあっという間に感じる。


「寮の門限もあるし、時間的に乗れるのはあと一つくらいだね」

「一つかぁ……。じゃあ、私が乗りたいやつに付き合ってもらってばっかりだったし、最後は九条くんが乗りたいのに乗ろうよ」

「そうかい? なら……」


 俺の視線の先にあるのは、大きな車輪の周囲に丸いゴンドラが取り付けられた乗り物。
 ゆったりと動くそれは、猛スピードで走るジェットコースターにはしゃいでいたまふゆには物足りないかも知れない。

 けれど、俺達のこれから(・・・・)を話すにはちょうどいい場所だと思った。


「最後はあれに乗ろうか」


 俺が指を差したのは――観覧席だった。