「まふゆ、準備は出来たかい?」

「もうちょっとー!」


 寮にある彼女の自室のドアをノックすると、まふゆの慌てたような声が返ってくる。
 それが微笑ましくて笑っていると、ギィっとドアが開いた。


「ごめんごめん、お待たせ!」


 ホタル石のネックレスを胸元で揺らしながらまふゆが部屋から出て来る。
 その姿は普段と違い、長い紫色の髪を緩く巻いていて、とても可愛らしい。服装も普段シンプルなものを好むのに、今は女の子らしい淡い色合いのものを着ている。


「可愛いねその服。新しく買ったのかい?」


 俺が問いかけると、まふゆは嬉しそうにはにかんで頷いた。


「うん、朱音ちゃんとカイリちゃんが選んでくれたの。……その、九条くんとデートするって、言ったら……」

「っ、」


 真っ赤に頬を染めて告げられ、俺の頬にも熱が溜まっていくのを感じる。

 まふゆと晴れて付き合うことになって、もうすぐ二ヶ月。
 少しずつこの新しい関係にも慣れてきたところだが、未だ胸のざわめきは鎮まりそうにない。


「じ、じゃあ行こうか」

「……うん。えへへ、遊園地なんて初めて。嬉しいなぁ」

「俺も」


 手を差し出せば、当たり前のようにまふゆを俺の手を取ってくれる。
 それに湧き上がるような嬉しさを感じながら、俺は数日前のことを思い出していた――……。