「なんかね。病気のこともあって、今までは人前では気を張っていたんだって。でも本当は朝も弱いし、シャキッとするのも苦手みたい。今朝も起こしてもなかなか起きなくってね……」
「「「…………」」」
思い出してクスクス笑いながら言うと、何故かみんなが真顔でこちらを見ていた。それに私は首を傾げる。
「? どうしたの?」
「〝起こす〟って、なんだそれ?」
「へ?」
「雪守ちゃんと九条様って、当たり前だけど同室じゃないよねぇ」
「え、あー……」
「まさか陛下に言えないようなことまでしていませんよね?」
「へぇっ!!?」
いつものヘラヘラした雰囲気をかなぐり捨て、護衛らしい真剣な表情で私を見る木綿先生。
それに言わんとすることを察して、私は顔だけでなく、全身まで真っ赤に染めあげて叫んだ。
「ちっ、違いますっ!! してません、そんなことっ!!!」
ぶんぶんと首を横に振って、これ以上誤解されたら堪らないと、私はペチペチと九条くんの手を叩く。何度か続けると、九条くんが不快そうに眉を動かした。
「んん?」
「九条くん、起きて!」
「うーん……」
「?」
緩慢な動作で目を擦り、のろのろと顔を上げた九条くんが私を覗き込む。
それにキョトンと目を瞬かせれば、まだ寝ぼけ眼でぽやんとしまま、九条くんが微笑んだ。
「ふふ、まふゆは可愛いな」
「っ、!!?」
その常と違う幼げな様子に、私の心臓はすっかり撃ち抜かれ、「うっ……!」と言葉を詰まらせる。
「うわー。雪守、惚気はやめてくれよな」
「いやいや! それは私じゃなくて九条くんに言ってよ!」
「雪守ちゃんめっちゃ嬉しそうな顔してるし、同罪だよ」
「ええっ!?」
慌てて顔に両手をやると、瞬間弾けたように楽しそうな笑い声が響く。
それにカマをかけられたのだと気づいて、私は叫んだ。
「もーうっ!! みんなふざけてないで、ちゃんとお仕事しなさーーいっ!!!」
◇
最初はとんでもなかった九条くんとの出会い。
でもその先には、とびっきりの未来が待っていた。
『今のって妖力だよね? もしかして雪守さんって……妖怪?』
あの時の問いに今の私が答えるとしたら、人間でも妖怪でも、それこそ半妖でもない。なんとも摩訶不思議な存在だ。
けれどそれでも九条くんは変わらず、〝雪守まふゆ〟を望んでくれる。
それが何より幸せで、だから取り巻く状況がどれだけ変わっても、私は強くいられるのだ。
願うならこれから先も……。
ずっと一緒にいようね、九条くん!