『お、お披露目の儀、ですか……!? で、でもあのっ、私そういう場での作法なんて、全然……』


 いずれそうなる予感はしていたが、やはり実際に口にされると心臓に悪い。
 おずおずと言うと、陛下の背後に控えていた宰相さんが鷹揚(おうよう)に頷いた。


『そこは私がなんとか形になるまで指導致します。とはいえ、使える時間は短い。厳しくいきますので、風花殿共々、お覚悟させますよう』

『嫌だわぁ、相変わらず〝鬼の宰相様〟は怖いんだから~。まふゆは皇族だの貴族だの、一切触れずに育ったの。優しくしてよね』

『……私としてはどちらかと言うと、皇女殿下より風花殿の方が心配なのですがな』


 宰相さんは相変わらずのお母さんの軽口に青筋を立てながらも、心なしか声は穏やかだった。
 陛下には幼少の頃から仕えていたと言うし、彼にとってもお披露目の儀は、なかなか感慨深いものがあるのかも知れない。


『――まふゆ』

『わっ!』


 考え込んでいると、また陛下にわしゃわしゃと頭を撫でられる。
 それに顔を上げれば、陛下は真っ黒な瞳を細めてにっこりと笑った。


『お披露目が済んだら、一緒に暮らそう。もちろん風花もだ。皇宮での暮らしは今より少し窮屈かも知れんが、皆そなたを歓迎している。そうそう、先日弟夫婦に男の子が生まれたんだ。可愛いぞ、この後一緒に見に行こう』

『はい……』


 私の気持ちをよそに、取り巻く状況は目まぐるしく変わっていく。

 ティダの田舎で育った娘が実はお姫様だったなんて、降って湧いたような話。未だに夢かと思うが、やはり紛れもなく現実だ。
 これからはお父さんとお母さんと、三人で一緒に暮らせる。それは昔から憧れていた、とても嬉しいこと。

 けど同時に〝雪守まふゆ〟という存在は、どんどん小さくなっていく。
 きっとこれからは、〝皇女まふゆ〟が私の中で大きくなっていくのだろう。
 それに寂しさを感じない訳じゃない。


 ……でも、


 それでも変わらないものだって、ちゃんとあるのだ――。