「まぁまぁ。全部丸く収まったんだし、もうこれ以上細かい話はいいじゃない! ねぇ、それよりその缶の中には何が入ってるの? 紫蘭から葛の葉への贈り物なんでしょ」
「妾への?」
お母さんの一言で、全員の関心が九条くんが抱えている缶箱に向かう。
それに九条くんは頷いて、葛の葉さんへとそれを差し出した。
「ティダである人物に、父が預けていたそうです。貴女に俺から渡すようにと。あと先に謝っておきますが、〝開けずに』という父の伝言は破ってしまいました。記憶を取り戻す前、俺の実の母が想像通りの人物なのか、知りたくて」
「…………そうか」
葛の葉さんは九条くんから缶箱を受け取り、蓋をそっと開ける。
すると中に入っていたのは……、
「ほぉ。ティダの星の砂に、ホタル石のネックレス……。紫蘭のヤツ、いつの間にティダへ行ったのだ? 土産話はいつも嫌というほど聞かせてやっていたが、行ったなんて話は聞いたこともなかったぞ?」
どれもティダに縁のある品に、陛下は不思議そうに首を捻る。
それにネックレスを手に取っていた葛の葉さんが、「そういえば」と呟いた。
「……一度だけ、思い当たることがある。神琴が4歳の時に、暗部を出し抜き、あやつが神琴を連れて屋敷を出たことがあった。あの時は大うつけかと激怒したが、そうかその時に……ん?」
カサッという音と共に葛の葉さんが手に取ったのは、缶の一番奥底に隠すようにしまわれていた、一通の封筒。
表には簡潔に、〝葛の葉へ〟と書かれている。
「手紙?」
「紫蘭の阿呆が……、こんなものまですぐに寄越さず……」
少々悪態をつきながらも、葛の葉さんは封を開け、手紙を開く。
「――――……」
するとその瞬間、彼女の目からは大粒の涙がこぼれた。
「……っ、本当に……、阿呆め……」
その様子から、きっと素敵な言葉が綴られているのであろうことはすぐ察することが出来た。
けれど一体なんと書かれていたのだろう?
気になって私は、こっそりと九条くんに聞いてみる。
「ねぇ、紫蘭さんの手紙にはなんて書かれていたの?」
「かなり不器用な人だったからね。手紙もかなり熟考した跡があって、結果かなり簡潔に書かれていたよ」
そう言って九条くんはふっと微笑んだ。
「〝愛してる〟ってね」