「待ってください。〝ともかく〟だなんて、葛の葉さんと紫蘭さんはとても仲が良かったって、三日月さんが……」
私の言葉に葛の葉さんはゆるりと首を振る。
「かつては、な。しかしその関係は國光達と対立した時に破綻した。紫蘭は國光や風花を害そうとした妾を許さなかった」
「そんな……」
確かに彼女のした行いは、決して褒められたものではない。
でもその行動は全て、紫蘭さんを救う為。
理由があるからって、何をしてもいい訳じゃないのは分かる。
けど彼女の真意が当の本人に伝わってなかったのだとしたら、それはあまりにも悲しい……。
「……葛の葉、貴女は誤解している。父の本当の気持ちを」
「? なんじゃと?」
しかし暗くなりかけていた空気を、九条くんが一蹴する。
そして驚く葛の葉さんをよそに、九条くんは振り返って朱音ちゃんを呼んだ。
「朱音、俺が預けたものは?」
「はい、ありますっ!! ここにっ!!」
「あっ、それ……!」
どこから取り出したのか、朱音ちゃんが両手で掲げて見せたのは、いつかティダで魚住さんから渡された例の古びた四角い缶箱だった。
それを九条くんが朱音ちゃんから受け取る。
でもティダで受け取ったのは、確かに九条くんだったはず……。
「なんでそれを朱音ちゃんが持ってたの?」
「今日の昼食の時に一度寮に戻っただろ? その時朱音に預けたんだ」
「へっ!?」
あ、そういえば三日月さんがいなり寿司を持って現れた後、九条くんは朱音ちゃんと共に寮に戻ってたっけ!
あの時はなんでなのか分からなかったけど、まさか缶箱を預ける為だったなんて!
「でもどうしてそんなことを……?」
私が尋ねると、九条くんは葛の葉さんの背後に控えている三日月さんへと視線を向ける。
「そこの彼女が言った言葉さ。俺が倒れたとしても、葛の葉の手にそれが渡るようにしておきたかった」
「?〝言葉〟……?」
なんか言ってたっけ?
思い出そうと考え込むが、しかしそれより先に九条くんが口を開いた。
「〝くれぐれも暗部としての勘は鈍らすことのないよう〟あれは間もなく葛の葉が動くと、朱音だけでなく、俺にも向けられた言葉だった。そうでしょ? ……ばあや」
「へぇっ!!? ばばば、ばあや!!?」
九条くんの言葉に、朱音ちゃんがひっくり返らんばかりの悲鳴を上げる。
それに三日月さんから微かに笑う気配がしたかと思うと、彼女はそっと狐面を顔から取った。
瞬間現れるのは、優し気な笑みを浮かべた白髪のおばあちゃんで――……。
