「わああああん!! 神琴様ぁ、よかったですぅぅ!!!」

「オレは最後まで雪守ならやってくれるって、信じてたけどな」

「ええ? ついさっきまで顔は真っ青。唇は紫にしてた癖に?」

「それは雪守の冷気のせいだろっ!! てかそれを言うなら、水輝もだろ!!」

「二人揃ってこの世の終わりみたいな顔してたじゃん。なに張り合ってんの?」


 朱音ちゃんに夜鳥くん。雨美くんにカイリちゃん。
 相変わらずのノリだけど、みんなホッとしたように笑っている。
 

「よくやった、まふゆ。ううむ、しかしこの術の発動方法、なんとか変えられぬものか……」

「あら國光ったら、分かってないわねぇ! これがいいんじゃない! 〝最愛の人をキスで救う〟ってのが、ミソなのよ!!」

「分かりますぅぅ!! ロマンですよねぇ!! 僕の内なる乙女回路も、ぎゅんぎゅん回っちゃいました!!」

「皇后陛下と同じ程度(レベル)とは……。陛下が疾風(はやて)を皇女殿下の護衛に選ばれた理由、今理解しました」


 皇帝陛下にお母さん。木綿先生に宰相さん。
 彼らもまた好き勝手言ってるが、それでも色々な肩の荷が下りたのか、安堵したように笑っている。


 そして――……。


「神琴……」


 三日月さんに支えられ、葛の葉さんが呆然とした表情で九条くんを呼んだ。
 すると私の体を離し、九条くんも葛の葉さんを見る。


「くず……」

「あ、ぁ……」


 九条くんが名を呟いた瞬間、葛の葉さんはわっと彼に泣きついた。


「あああ!! あああああああっ!!!」

「葛の葉……。いえ、お母さま……」


 わんわんと子どものように泣きじゃくり、九条くんにしがみつく葛の葉さん。
 その小さく幼い体を九条くんがそっと抱きしめる。


「すみません、貴女は俺と父にあまりにも長きに渡って翻弄(ほんろう)され続けた」

「そんなもの……、どうでもよい。そなたが今生きている。この事実だけで、これ以上望むものは何もない。紫蘭だって同じだ。あやつは(わらわ)ともかく(・・・・)、そなたのことはとても慈しんでいた」

「……?」


 九条くんが5歳の時より、おおよそ12年振りの親子の和解。
 感動的な空気に水を差したくないが、しかしそれでも一点聞き捨てならない言葉に、私は声を上げる。