「あ……」


 ハッと泣きじゃくって閉じていた目をベッドに向ければ、ゆっくりと開いていく金色の瞳と視線が合わさる。

 その瞬間、声にならない声が私の喉から漏れた。


「……っ、九条くん……っ!!」

「まふゆ、まふゆ。夢じゃ……ないんだな……? 俺、生きて……」


 信じられないという表情で、九条くんが身を起こす。
 その動きはとても滑らかで、今の今まで()せっていたようにはとても見えない。どこも不調が無さそうなのが伺えた。


「バカッ!!」


 堪えきれずに、私はその体にぎゅっと抱き着く。


「夢な訳ないじゃん!! 言ったでしょ、私が幸せにするって!! それには九条くんがいないと、始まらないじゃない……!!」

「……うん」


 溢れる私の涙が、あっという間に九条くんが着ているジャージを濡らしていく。
 けれどそれを嫌がることなく、むしろより体が密着するように強く抱きしめ返されて、そっと頭を撫でられる。
 それがとても気持ちよくて私はすっかり身をゆだねていると、不意に九条くんが言った。


「ところでまふゆ、その姿は(・・・・)? それに随分と室内が冷え込んでいるようなんだけど……」

「え?」


 言われて九条くんがひと房手に取った、自身の髪に視線を向ける。
 するとそれは見覚えのある白に近い薄紫色で、思わず私は「あっ!」と声を上げた。


「も、もしかして私、また覚醒しちゃったの!? なんか妙に妖力がお腹の中でぐるぐるするなぁって思ってたけど……!?」

「なんでもいいから、早く鎮めなさいっ!! みんな凍死しちゃうわ!!」

「ええっ!? う、うんっ!!」


 九条くんが目覚めことで頭がいっぱいだったが、振り返ればみんな、あまりの寒さにガタガタと身を震わせている。

 さっきの悲鳴や叫び声はそのせいだったのか……!
 お母さんに怒られて、慌てて私は三日月さんに教えられた鎮め方を思い出す。


『心を落ち着かせるのです。さぁ息を吸って、吐いて』

「ええっと、深呼吸、深呼吸……っ、!?」


 大きく息を吸って吐いた途端、突然体から妖力が一気に抜け落ちたような感覚があり、その反動で私はガクンと九条くんの胸元に倒れ込んだ。


「あ……」

「大丈夫かい、まふゆ!?」

「う、うん。なんか急に力が抜けて……」


 もしかして、これが陛下の言っていた〝代償〟なのだろうか?
 手に妖力を込めようとしても、何も生まれない。先ほどまであれだけ感じていた体内の妖力のうごめきも、今は何も感じられない。

 もはや私は〝半妖〟ではなくなってしまったのかも知れない。

 ――でも、後悔はない。

 だって……。