「あのな」

「はい」


 すると何故か陛下は少し恥ずかしそうに、けれどしっかりと私に告げた。


「よいか、まふゆ。全能術……その発動方法は――……」

「――――!」


 聞いた瞬間、「ああ、なるほど」と思う。
 確かにこんな方法なら、相手が〝最愛の者〟でなければ出来ない。

 全てを聞き終えると、私はみんなが固唾を呑んで見守る中、そっと九条くんの顔を覗き込んだ。


「九条くん……」


 眠っていると言われたら信じてしまいそうなほどに、穏やかな表情。
 固く目を閉じて物言わぬ姿は、まるで先月の舞台の再現のようだった。


『ああ……っ、いやあああ!!! 王子様ぁ!! どうか目を覚まして!! お願い、お願い、起きて……!!』


 まさかお芝居が現実になるだなんて、あの時誰が思ったことだろう?
 でも、妖怪国の王子様のような最後にはさせない。

 ……絶対に。


「――お願い」


 九条くんの手を取り、そっと握りしめる。
 今からとてつもなく大きな力が動く予感からか、ざわざわと私の体の中の妖力が揺れ動いた感覚がした。


『よいか、まふゆ。全能術……その発動方法は〝口づけ〟だ。生涯を誓った最愛の者であれば、それで術は発動するだろう』


 皇族の秘術。一体どんな肩苦しいものなのかと思ったら、随分とロマンチックな方法だ。

 あるいは術の始まりは、〝愛する人の運命を変えたい〟そんな切なる祈りが奇跡を起こした、偶然の産物だったのかも知れない。……なんてね。


「起きて、九条くん」


 覗き込んだ顔に自身の顔をゆっくりと近づける。
 そして私は身をかがめ、そっと九条くんの唇に己の唇を重ねた。