「お母さま……。貴女は本家の者達が居なくなった今も、一族の闇に囚われている。……もういいんです。貴女によって、本家(彼ら)に虐げられていた末端の妖狐達は救われた。だから……もう……、ゴホッ! ゴホッ!!」

「九条くんっ!!」

「いかん! まふゆっ、とにかくそなたの妖力を……! ありったけを彼に注ぐのだ!!」

「は、はいっ……!」


 切迫した空気の中、陛下が叫び、私はそれに頷く。
 そして更に九条くんの手を強く握りしめ、氷の妖力を込めた。


「九条くん! 九条くんっ……! 大丈夫だから……! お願い、頑張って……!」

「ま……ふゆ……」

「っ」


 けれどもどれだけ妖力を注いでも、火のように熱かったその手からは、どんどんと体温が抜け落ちていく。

 今は……もう、雪女よりも冷たい。


「っ神琴…… 、神琴、神琴……!」


 葛の葉さんがそんな彼の体に(すが)りつき、九条くんはその震える小さな肩に手を伸ばした。


「お母さま……、これ以上囚われてはいけない。貴女はもう、一族の目を気にせず外に出られる。何にも縛られずに生きられる。だって……、貴女は自由なんだから……」


「神琴……、いや、いやじゃ……!」


 何度も首を横に振る、葛の葉さん。
 それに九条くんは何か言おうと唇を動かすが、その金色の瞳が閉じた時、彼女へと伸ばされていた手がぱたりとベッドに落ちる。


 その瞬間――、


「いやぁぁぁぁぁぁっ!! 神琴ーーーーっ!!!」


 葛の葉さんの絶叫が保健室に響いた。