「全能術……。それって……!」
宰相さんから聞いた、皇族に伝わる一子相伝の秘術。
『実際とてつもない代物です。何せ全能術ならば、いかなる事象をも変えることが出来ると言い伝えられておりますから』
そうだ! 〝あらゆる事象を変える〟ことが出来るというその術ならば、きっと九条くんだって救える……!
「陛下、私からもお願いです! 全能術を使ってください!」
一気に希望が出て来て私は表情を明るくして言うが、それに対して陛下の表情は暗く重いものだった。
「…………」
私が話しかけてもずっと黙り込んだまま、陛下は何も答えない。
そんな陛下に九条葛の葉は話し続ける。
「國光。そなたは22年前、紫蘭を見捨てた。故に紫蘭はその僅か9年後、息を引き取った。そなたのせいだ」
「…………」
「そしてそれから13年経った今、今度は神琴が苦しんでいる」
「…………」
何を言われても陛下は答えない。
それに痺れを切らした九条葛の葉が、ついに叫んだ。
「お前のせいだ!! お前には救う力があるのに、紫蘭を見殺しにした!!」
「……それは違う。以前も言ったであろう。私には紫蘭を救う力は無かった。それを紫蘭も知っている」
「? 〝無い〟……?」
ようやく口を開いたと思ったら、力は無いだって……?
それはどういうことなんだろう? 宰相さんの言っていたことが本当なら、陛下は全能術を使えるはず……。
「黙れっ!! よくもぬけぬけと!! 皇族の秘術は一子相伝!! つまりお前は間違いなく、全能術を先の皇帝より引き継いでいる!! 力が無いなどと、分かりきった嘘をつくな!!」
「……葛の葉……、っ……」
「……?」
またも陛下は固く口を引き結んで押し黙る。
その様子は本当に辛そうで、私には嘘を言っているようには見えなかった。
でも、そうだとしたら、本当にもう……、手立ては……?