「…………」
九条くんは目を覚さない。
どれだけ待ったって。
どれだけ声を掛けたって。
たくさんの氷の妖力を込めたのに、どうして……?
「――これで分かったであろう? 妾がそなたに〝無駄だ〟と言った意味が」
「っ!」
すると、そこでそれまで何も言わずに私の行動を見ていた九条葛の葉が口を開く。
それにハッとレースで隠されたその顔を見れば、彼女はゆるりと首を横に振った。
「紫蘭の時と同じ。症状が末期にまで進行すると深く眠りにつき、やがて身体のあらゆる機能が停止する。もうそなたの妖力ごときでは、神琴にひと時の癒しすら与えられない」
「そ、んな……」
突きつけられる現実に、じわじわと私の目に涙が溜まる。
みんなに助けられてここまで来たのに、もう私には何も出来ないの?
ただ見ているだけなんて、絶対に嫌だ……!!
何か、何か打つ手は……!?
「打つ手はある、一つだけ」
「えっ!?」
まるで私の心を読んだかのような言葉に、驚き目を見開く。
しかし当の九条葛の葉は私ではなく、真っ直ぐに皇帝陛下を射抜くように見つめていた。
「葛の葉、そなた……」
それに陛下は息を呑み、苦悶に満ちた声で答える。
「神琴を救うには、もっと〝強大な力〟が必要。そうだろう? 國光」
「…………」
何も発しない陛下に、九条葛の葉は更に畳み掛けるようにして続けた。
「タイムリミットは近い。今度こそ、そなたに〝全能術〟を使ってもらうぞ」