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学校には先生の宣言通り、すぐに辿り着いた。
しかし地上を見下ろすと校門前にはおびただしい数の人で溢れ、ざわざわと騒がしい。
しかもその渦中には学校長が居て、何かを叫んでいる。
「学校長はともかく、他の人達は学校関係者じゃないですよね?」
「ええ、皇宮護衛官に新聞記者。それに騒ぎを聞きつけた野次馬ってところですね。九条家のご当主が現れた後、体育祭はすぐさま中止。生徒達は家に帰しましたが、皇帝陛下の御前であのようなことが起きたのです。もはやこの騒動は帝都中の知るところとなっています」
「帝都中……」
想像以上に大騒ぎになっていたことに不安を覚えるが、しかし今は周りのことなど気にしている場合じゃない。
「急ぎましょう! 倒れた九条くんは保健室に運ばれました。恐らく今も陛下達はそこに……!」
「はい……!」
校舎内に入ると、一反木綿から人間の姿に戻った木綿先生と共に、私は保健室を目指して廊下を走る。
「あっ! まふゆ! 先生も!」
「お母さんっ!!」
すると保健室の前にお母さんと皇帝陛下がいるのを見つけ、私は慌てて駆け寄った。
「まふゆ。よかったわ、無事で……」
「お母さんこそ、腕は……?」
チラリと視線をお母さんの腕へと向けると、既に応急処置をされた後なのか、包帯が巻かれている。
それにぎゅっと顔を歪めると、お母さんは固かった表情を緩めた。
「わたしはこの通りただのかすり傷だし、平気よ。大変なのは……」
「…………」
言葉を切り、お母さんの視線が保健室へと向かう。
この中に居るのは間違いなく……。
「……九条くん」
私は突き動かされるように、保健室の扉へと手を伸ばす。
――しかし、
「待ちなさい、まふゆ」
「!」
一人の人物によって、それは制されてしまう。
「皇帝陛下……」
止めたのはつい先ほど、私のお父さんだと知ってしまった人物。
まるで全てを見透かすような漆黒の瞳。
それが今はなんとなく気まずくて目を逸らすと、陛下が私の前に進み出て、スッと扉に手をかけた。
「……え?」
「中には葛の葉が居る。そなたを一人にする訳にはいかない。私の後ろから着いてきなさい」
「……はい」
「陛下、万が一の時は僕も中に突入します」
「ああ、頼む」
陛下に跪く木綿先生を見て、〝本当に先生は皇宮護衛官なんだなぁ〟と、つい場違いな感想を抱く。
そして着ている羽織を翻して保健室へと入った陛下に続いて、私も緊張しながらも保健室の中に足を踏み入れた。
